「親が認知症と診断されたので、もう遺言も贈与も何もできませんよね?」
ご相談の中で、こうした質問をよくいただきます。とても大切な誤解なので、今日はここを丁寧に整理しておきたいと思います。
結論:診断を受けた=直ちに意思無能力、ではない
まず結論からお伝えすると、「認知症の診断を受けた=直ちに意思無能力者になる」わけではありません。ここは法律上・実務上、とても重要なポイントです。
「意思能力」はその瞬間・その行為ごとに判断される
民法における「意思能力」は、特定の行為(法律行為)を行ったその瞬間・その場面において、その行為の意味や結果を理解できていたかどうかで、個別・具体的に判断されます。
つまり、「認知症だから一律にアウト」ではなく、「その契約・その手続きの時に、本人がちゃんと理解できていたか」がポイントになるということです。
行為の内容によって求められるレベルが違う
同じ「意思能力」でも、行為の複雑さによって求められる判断力のレベルは変わってきます。
- 日常のお買い物(日用品の購入など):高度な判断力は不要なため、認知症と診断されていても意思能力ありと認められやすいです。
- 不動産の売買や遺言作成、多額の贈与など:行為の結果やリスクが複雑なため、より高度な判断力が求められます。
同じ方でも、「コンビニでの買い物はできても、不動産の売買契約は難しい」ということが十分にあり得るわけです。
症状の度合いや「波」も関係してくる
認知症には、初期・軽度の段階や、日によって(あるいは時間帯によって)頭がしっかりしているタイミングがある「まだら認知症」という特徴もあります。
そうした調子の良いタイミングであれば、複雑な契約であっても「その時点では意思能力があった」と判断されることがあります。
医学上の診断と法律上の判断は「別物」
ここを混同してしまう方が本当に多いのですが、実は次のように整理されます。
| 区分 | 概念 | 決定・判断の方法 |
| 医学上の診断 | 「認知症」という病名 | 医師による診断(長谷川式スケールやMRIなど) |
| 法律上の効果 | 「意思無能力」 (民法3条の2) | 個別・具体的に裁判所などが判断(診断結果は強力な判断材料の一つ) |
つまり、医師の診断は「判断材料の一つ」であって、それだけで法律上の結論が自動的に決まるわけではないんですね。
実際の裁判例でも、「軽度認知症の診断を受けていたが、公証人の立ち会いのもと内容を正しく理解して作成された遺言は有効」と判断されたケースがある一方、「診断直後でも、契約内容を全く理解できていなかったため無効」と判断されたケースもあり、結論は分かれています。
まとめ:大切なのは「記録を残しておくこと」
認知症の診断は、あくまで「判断能力が低下している可能性・証拠」という扱いであり、一律にすべての法律行為が無効になるわけではありません。
そのため実務(遺言・遺産分割・不動産売買など)では、「後から無効だと訴えられないよう、公証人や医師の診断書・面談記録をしっかり残しておくこと」が極めて重要になります。
「認知症の診断が出たから、もう何もできない」とあきらめてしまう前に、まずは現状を一緒に整理させてください。判断能力がしっかりしているタイミングであれば、遺言や任意後見契約など、今のうちにできることがまだ残されている場合も多いです。
おもいつむぐ行政書士事務所では、認知症のご家族がいらっしゃるご家庭からのご相談も承っております。医療・介護の知見も踏まえながら、今できることを一緒に考えます。



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